作:椎堂かおる
[この作品を自動朗読した音声ファイルです。約2分。AmazonPollyで制作しました。](https://s3-us-west-2.amazonaws.com/secure.notion-static.com/d96e6e66-faaa-4dee-b677-bb8fb65dd55e/chirimon_001.mp3)
この作品を自動朗読した音声ファイルです。約2分。AmazonPollyで制作しました。
仕事で疲れて帰ってくると、何を食べる気力もない。 それでも何か食べないと飢え死にしそうだ。 それはまずい。 そういう気持ちを引きずって、一人暮らしのワンルームの冷蔵庫を開けたら、卵が一個と、いつ買ったんだったかも憶えてない、ちりめんじゃこの袋があった。 とりあえず米は炊いてある。昨日からずっと、炊飯ジャーで保温したまんまのやつだ。 そろそろ端っこが乾いてカチカチになりかかった、生温いその白飯を茶碗に入れて、生卵と醤油をかけて、ちりめんじゃこをトッピングして食べることにした。 名付けて、ちりめんじゃこ乗せ卵かけご飯だ。 名付ける必要はなかった。 箸でかきまぜて、黙って一人でごはんを掻き込む。 うまい。ような気がする。よくわからない。とにかく飯は飯だ。 すごくうまい気がして、たぶん自分は腹が減っていたんだなと思った。 あと一口、二口のところまで食べてから、卵まみれの米粒の間に、何かがニョキッと生えてるのに気づいた。 ちりめんモンスターだ。 ちりめんじゃこはイワシの稚魚だが、イワシ以外のやつが、ついでに網にかかってしまい、イワシといっしょに乾燥させられて、ちりめんじゃこに混ざってしまったのが、ちりめんモンスターだ。 エビやカニの幼生や、タイやヒラメ、リュウグウノツカイの幼魚まで見つかることがあるらしい。 この茶碗に入ってたのは何だったんだろうな。 本当はイワシじゃないのに、イワシの中に混ざっちまって、本当は何なのかもわからないじゃないか? 食って大丈夫なのか、これ。そう思いながら、ぺろりと一膳平らげた。 ごちそうさま。 うまいかマズいかもわからないけど、たぶん、まあ、うまかったかな。
END.